インタビュー

「本当にやりたかったことができ、日々成長していく自分を実感した3年間でした。」——食肉加工のゲゼレ試験合格者、古塩 祐士さんインタビュー

「Baumlog」を運営している私たちは、「株式会社ダヴィンチインターナショナル」(以下:ダヴィンチインターナショナル)という会社で、日本人の若者が、ドイツの職人としてのゲゼレ、または職人の最高峰の国家資格マイスター、すなわちドイツで職人になり国家資格を取得するためのサポートをおこなっています。

多くの人に、私たちの活動を知っていただくために、ダヴィンチインターナショナルのプログラムに参加している方が実際にどのような生活を送っているのか、紹介したいと思います。

今回は、ダヴィンチインターナショナルの参加者でドイツでの国家資格ゲゼレ試験が終わったばかり古塩 祐士さん(以下:ユウジ)にインタビューをしました!

ユウジさんは2016年の3月にドイツにやってきてプログラムに参加。2019年の7月に試験が終わりましたので、試験の感想や体験談などをうかがうために会いに行ってきました。
それでは試験が終わったばかりのユウジさんのインタビューを、お楽しみください!

(聞き手・松居 温子/株式会社ダヴィンチインターナショナル 代表取締役)
(文中敬称略)

「1」をとりたかったのですが、時間内にもっている力を出し切ったといった気持ちなので、悔いはないです。

——自己紹介をお願いします。

ユウジ:古塩 祐士です。現在26歳です。
ミュンヘンで食肉加工(Metzgerei)の研修を受け、先日ドイツの国家資格ゲゼレの試験が終わりました。

松居:試験、終わっていかがですか。

ユウジ:やりきったなという感じです。
成績には、「1」から「6」まであり(ドイツでは「1」が一番良い成績)、本当は「1」をとりたかったのですが、最終的には「2」でした。実はもう少しで「1」だったんです。ただ、時間内にもっている力を出し切ったといった気持ちなので、悔いはないです。

実際に食肉加工の試験で「1」をとった人は過去にもいないそうです。

日本人で「2」をとるということはかなり優秀で、マイスターが飛び上がるように喜んで報告してくれました。

松居:試験を終えた感想、ありがとうございました。
今回のインタビューは、これからドイツを目指す参加者のみなさん、そして、ドイツでのチャレンジを検討しているみなさんの参考になればと思っています。

最初から最後まで、自分でおいしいソーセージを作りたい!

——ユウジさんがダヴィンチのプログラムを受けようと思ったきっかけを教えてください。

ユウジ:関西学院大学理工学部を卒業し、もともと、おいしいソーセージが作りたくて日本ハムに就職し、工場での仕事をはじめました
働きはじめてから、上司に色々な質問をすると、ウィンナーはこういうふうに作るもの、といった感じで、本部から言われたことをしていればいいといった回答でした
僕は、最初から最後まで、自分でおいしいソーセージを作りたいという思いがあり、その熱があるうちに、ドイツに来て「Ausbildung(アウスビルドゥング/職人・職業人訓練)」を受けようと思いました。

松居:実際にドイツにきて、どうでしたか。

ユウジ:まず、時間が経つのがあっというまでしたし、本当に自分がやりたくて来たので、楽しかったです。
とにかく種類の多いハムやソーセージを作る基礎を学び、そこからさらに自分がつくりたいソーセージをつくるためのノウハウを学ぶことができ、日々自分の成長を感じることができたのが本当によかったし、充実しました。

松居当初から描いていた、自分がつくりたいハムやソーセージを作るための力がついたという実感はありますか。

ユウジ:あります。例えばバイエルン地方のヴァイスヴルストなどは、それぞれのお店にレシピがあったりしますが、そのレシピを学びながら、自分がこういうふうにつくりたいと思った場合に、つくる工程が予測できるようになり、実力がつきました。

1年目はとにかく必死。2年目でいろいろなことがわかってきて、力がついてきたのを実感しました。

——3年間の研修について、くわしく教えてください。

ユウジ1年目はとにかく必死で、言われたことをやる、指示されたことをやるのが精一杯でした。
その時点では、それぞれの作業が点となって散らばっていて、ドイツ語で指示されることを必死でやったという感じでした。まだまだ1年目の時点ではわからないことが多いですね。

2年目になると、具体的なソーセージ作りに入ります。それまでは個々の指示に必死になって対応していたのですが、一連の作り方を知ることができるようになり、面白くなってくるし、ソーセージ作りの大変さもわかってくるようになりました。

2年目は、本当にいろいろなことがわかってきましたね。ドイツ語もできるようになってくるし、ドイツの研修制度はデュアルシステムなので、座学を勉強したことを実践でもおこない、実践したことの理論を座学で勉強するので、理論と実践が結びついてくるのを感じました。マイスターには、本当にいろいろなことを学ばせてもらいました。

また、2年目は中間試験もあるので、マイスターに準備の指導をしてもらいながら試験の準備をしました。このときはマイスターの指示に従い、丁寧に指導してもらいました。

3年目になると、すでに工房でも色々なことができるようになります。実際の本試験の準備も、いちいちマイスターから声をかけてもらって指導してもらえるわけではありません。

準備も基本的には自分でおこない、わからないことや指導が欲しい場合には、自分からマイスターに質問をしたり、協力をしてほしいと相談することも、一人前になるために必要な能力ということで、研修生自らが行動を起こして準備を進めていきます。一人前になるための自覚を促されていたような感じです。
質問や相談をすればもちろんマイスターは教えてくれました。本当に良い職場に恵まれました。

松居:まさに教育のメソッドですね。中間試験の段階では、まだまだ一人前になる途中なので、マイスター自らていねいに指導してくれますが、本試験前は、マイスターもいちいち声をかけてあげるわけではないんですね。

お膳立てはないので、試験課題が出て準備が必要なことは、研修生自ら質問し、また、目指したいゴールをマイスターに伝え、そのためにどんなことを協力してほしいかという相談も自分からおこなうなど、研修生自身が行動して、はじめて力が認められる。マイスターは、研修生が自分で考えて行動する力を養っているのですね。

ユウジ:まさにそんな感じでした。
その中でも嬉しかったのが、1年目のうちから頑張っていることをみてくれていて、ソーセージづくりそのものに携わらせてもらったりしたことなどで、モチベーションを高めるきっかけをもらっていたことには、とても感謝しています

松居:ユウジさんにとって良い研修先であったことは、ダヴィンチインターナショナルとしても、とても嬉しいです。細かい話ですが、実際の試験内容はいつ頃からわかるのですか

ユウジ試験の招待状は2ヶ月前くらいに、具体的なタイムスケジュールとともに案内がくるのですが、食肉加工の場合には、だいたい試験内容は前々からわかっているので、実際の発表前から準備ができます

7時間という時間内に全ての課題を仕上げることが大切です。

——試験の具体的な内容を教えてください。

ユウジ牛の背中からももにかけての解体、そして分類。ウィンナーの製造。ネットで充填して燻製までおこないます。次は巻物。ドイツ語では「Rollbraten(ロールブラーテン)」といいます。
お肉を紐でしばる、日本でいうチャーシューのようなものです。より近いのが巻き寿司でしょうか。お肉の中に色々と具材を入れて、オーブンで焼きます。
これは、断面図を切ったときの美しさが審査されます。仕上がりはだいだい1キロぐらいと、かなりボリュームがあります。

そしてもうひとつ、焼くだけでおいしく食べられる料理の飾り切りを添えたもの。僕は「Spiess(シュピース)」という、串刺し料理を作りました。
さらに、料理を1品。基本、どんな料理でも良いのですが、1種類の料理を2人前作るのが課題です。

松居:ちなみにユウジさんは「子牛のロースのゴルゴンゾーラソース添え」を作ったそうです。料理名を聞いただけでおいしそうですね!実際とても美味しくできたそうですよ。

みなさんが試験で気をつけているのは、7時間という時間内に全ての課題を仕上げること。これが一番大切になります。
時間内に、かんたんなものをきれいに仕上げるのかなど、自分で考えて判断します。

ドイツでは、上司が自らの仕事にとても誇りをもっている印象があります。

——日本とドイツの上司は、なにか違いがありましたか。

ユウジ:僕の場合、日本では上司に色々と質問しても、「こう決まっているから。」、「とにかくやって!」、と言われることが多かったけれど、ドイツの上司の方は議論好きで、質問をするといろいろと答えてくれるし、意義や意味を教えてくれました

ドイツでは、上司が自らの仕事にとても誇りをもっている印象があります
日本では、例えば、公務員や弁護士の方が精肉店の店主よりも偉いなど、職業の内容で上下関係があるイメージですが、ドイツには職業での上下はなく、ひとりひとりが自分自身の職業に誇りを持っているようです

ドイツのソーセージの種類は、1,500種類もあります。

——ドイツの食肉加工の日本との違いはどんなところですか。

ユウジまず種類が違いすぎるので単純な比較ができないですね。ドイツはソーセージといっても1,500種類ぐらいあるので、そこが日本と全然違います。

また、ドイツはパンが主食なので、パンにのせて食べるソーセージだったり、ハムだったり、種類がとても豊富です。日本にはパンにソーセージを乗せて食べるという文化があまりないので、そもそもソーセージに対する興味関心がドイツとは異なると思います。

日本は豚を使うのが基本ですし、脂身も多く使い、さらには水飴なども入れたりして甘みを重視し、ご飯を前提とした食肉加工品が多いです。
ドイツは、全くそういったものは入れません。豚と牛を半々ぐらいにして使い、肉肉しさを感じます。牛が入ると、色が鮮やかになりうまみが強くなるんですよ。

松居米文化とパン文化の違いで、作る材料が異なるんですね。なかなか興味深いです!

ユウジさんおすすめのドイツソーセージ

Nussschinken mit Chili(ヌスシンケン ミット チリ)

Geräuchertes Wammerl(ゲロイヒャーテス ヴアメアル)

Streichwurst mit Schnittlauch(シュトライヒヴルスト ミット シュニットラウホ)

Leberkäse mit Kirsch Pfefferononi(レーバーケーゼ ミット キルシュ プフェファーローニ)

今、なりたい自分になれたので、ここからどのようなビジネスチャンスがあるか、引き出しができた自分にこれから何ができるのか考えたいです。

——ゲゼレ取得後の将来について、ユウジさんの計画を教えてください。

ユウジ:これからは一度日本に戻り、ソーセージのコンサル業をしていきたいと考えています。それぞれの工房や会社で作りたいソーセージを作るための、コンサルなどをしていきたいです。

今、なりたい自分になれたので、ここからどのようなビジネスチャンスがあるか、引き出しができた自分にこれから何ができるのか、まずは日本に帰って、自分が市場を見てどのように感じるのか、からはじめたいです。

3年間の研修は、決して甘くはありませんが、日々成長していく自分を実感できます。

——これからダヴィンチのプログラムに参加しようと考えている人にメッセージをお願いします!

ユウジ:これからドイツで「Ausbildung(アウスビルドゥング/職人・職業人訓練)」をしたい人へ。
本当にやりたいと思っている人は絶対にやったほうがいい!
自分の目でみて、自分で体感して本当にやりたかったことができ、日々成長していく自分を実感できるので、絶対来たほうがいいです。自分は本当にきてよかったと思っています。後悔しない人生を選択してほしいです。

ただし大変なことももちろんあるので、なんとなくやってみようかな〜と考えている方や、参加しようか迷っている方は、慎重に考えるべきだと思います。3年間の研修は、決して甘いものではないからです。

僕の場合は、日々成長が実感できて楽しかったので、本当に来てよかったと思っています。やらない後悔にならないような選択をしてほしいです。
例えば仮に食肉加工でなくても、ドイツで働いたこの3年は自分にとって大きな財産になったし、自信にもつながりました。極端な話、日本のどこの企業でもやっていけるくらい自信があります。

おもしろかったのは、ドイツに来たとき、現地の人ひとりひとりが全員違う考えをもっていたり、堂々としていて、人って同じじゃないんだ、こんな感じでいいんだということを知れたことですね。
たくさんの人の考えを知りたくなるから、ドイツ語も自然に伸びました。ドイツ語で主張ができるようになると、自分のことに興味をもってくれる人が現れ、どんどん人とのつながりができたことで、生活自体も楽しくなりました。

松居:今日は色々とお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
ダヴィンチインターナショナルは、これからのユウジさんの活躍も楽しみにしていますし、全力で応援していきます!

ユウジ:ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします!

古塩 祐士(こしお ゆうじ)
関西学院大学出身。現在26歳。2016年の3月にドイツ・ミュンヘンで食肉加工(Metzgerei)の研修を受け、2019年の7月に試験終了。今後は日本に帰国し、ソーセージのコンサル業に携わる予定。



松居 温子(まつい あつこ)
父親の転勤に伴い、幼少期をドイツで過ごす。慶応義塾大学法学部法律学科を卒業後、日本銀行での社会人経験を通じ、日本人の若者は目指したい道(各種の職人、スペシャリスト)があっても、その目的に向かって歩む道が非常に少ない、または、将来に希望が持てないという相談を数多く受けたことをきっかけに、ドイツのマイスター制度にそのソリューションを見出し、高野哲雄と共同で「株式会社ダヴィンチインターナショナル」を設立。現在に至る。